水の隣り合う分子同士は反対電荷が互いに引き合う力で結びついています。
水素結合と呼ばれるこの力は、水の特性、すなわち、表面張力、凝縮、付着、の要因です。
有名な毛細管現象は、水のこれらの特性によって起きます。
「花屋のノウハウ」のページでも触れましたが、ここでも重ねて強調しておきたいことがあります。
それは、植物体内の水輸送に関する他の多くの仕組みと同様に「毛細管現象もまた重力に逆らう向きにも順じた向きにも働く」ということです。
ガラス製の細管に水が入り込むと、ガラス管壁に水が付着し這い上ります。コップに水を入れると端が僅かに持ち上がって見えるアレです。
端が持ち上がることによって水面の面積が増えます。それを減らそうと表面張力が働きます。管壁面付近の傾きを持った水面を縮めて、平らに(正確には上に凸に)近づけようとします。
細管が人の手などで固定されていれば、個体のガラスは動きもせず、変形もしないので、この力の大部分は(管壁への付着を架かりにして)水面を引き上げる方向に費やされます。
結果として、水全体を引き上げることになります。
管内の水の総重量(基となる水面から抜きんでた分)と、引き上げる能力が釣り合うまで、水面は上昇します。
これが毛細管現象の仕組みです。
太い管では極々微かにしか起きません。面積が二乗で増えるのに対して、体積は三乗で増えるからです。つまり、水面を引き上げる手がかりとなるガラスとの接面、そして表面張力の担い手である空気との界面、この二つの面積の増大に比較して、引き上げなければならない水の体積(重量)の増大の方が遙かに大きいのです。
上の太字部分は私自身の言葉で綴ってありますが、内容は理学書や百科事典の解説と同じです。
「上」、「下」の文字が頻繁に出てきますが、これは「実験が上向きで行われる」ことを前提として、現象の方向を示したに過ぎません。
それを踏まえて、お読みになれば、毛細管現象が下向きに働かない理由など見つからないでしょう。
重力に対する向きによって、付着と表面張力との力関係を変化せしむる要素を、少なくとも私は思いつきません。
以下は筆者の思考実験です。このような実験が、実際に、なされたかどうかは知りません。
引力圏の外にある宇宙船内か自由落下時の飛行機内なら、地上で行うに適わない実験が可能です。そこに起こる現象が重力の影響を受けないことは自明です。
玉になって浮遊する水塊にガラスの細管を差し込みます。このとき、差し込まれた細管の逆端は人の手などによって保持されているものとします。
水球が充分な大きさならば、差し込まれた細管がどんなに長くても、その中を水柱は逆端まで走ります。また、水球がガラス管に覆い被さる現象が同時進行するかも知れません。
ガラス管端のコバを回り込んで外側に水が這い出ることはおそらくありません。
ガラス管の外側に水が付着すると、親水性に富んだガラス管との接面より、ガラスより遙かに親水性に乏しい空気との界面の方が、確実に広くなります。毛管現象が起こるガラス管内側とは外法と内法が逆転するので、付着は抑制されるはずです。
重力のない宇宙船内では、毛細管現象はコップのような太さの管でも勢いよく起こるでしょうか?
答えはNoだと思います。径が大きくなれば単位長あたりの容量が増え、そこを満たすべき水の総質量も大きくなるからです。重力を受ける地上でも、受けない宇宙船内でも、毛細管現象の持つ加速度は変わらないので、起こるにしても緩やかでしょう。
実は、、、毛管現象が下向きにも起こることを確かめる簡単な方法があります。
宇宙に行くまでもありません。U字型の細管を使えばよいのです。
充分に細いU字型のガラス管を用意して、片端を水に沈め、もう一方の端は水面より高い位置で切り落とします。
もし、毛管現象が上向きにしか働かないのであれば、U字の頂点から先には水の行きようがありません。
これは他から学んだことではなく、私の思いつきです。実際に試したわけでもないので、結果は保証しかねます。